シリア、反体制派の異状

シリア反体制派の動向に注目していますが、どうやら段々、おかしな方向へ行きつつある気配です。

主流派の自由シリア軍については、かなり早い時期から、腐敗分子やならず者の混入、組織内部の連携の悪さ、熟練度の低さが表面化していました。海外の反体制派の代表組織もいつまで経ってもまとまれずにいます。
そんな中、これまではアルカーイダ系のヌスラ戦線や外国人義勇兵団ムハージリーンなどのサラフィ組織が—意外にも—評判がよく、反体制派の中で、とりわけ軍事的に重要性を増していました。
ところが、ここへ来て、今まで「意外にまとも」といわれたサラフィ組織が迷走を始めているようです。
まず、シリア版アルカーイダたるヌスラ戦線に「お家騒動」が持ち上がりました。ヌスラ戦線はもともと、イラクで活動している「イラクイスラム国」から分かれてできたともいわれ、深い関係を持っています。この、イラクイスラム国のアミール・バグダーディという人物が、「ヌスラ戦線とイラクイスラム国は合併して、イラク・シャム・イスラム国として今後活動する」と、宣言しました。これに対して、ヌスラ戦線の中のシリア人メンバーを中心に反発が出ました。
結局、本家アルカーイダのアミール・ザワヒリが潜伏先のパキスタンから声明を出し、「ヌスラ戦線はアルカーイダ直属の独立組織とする」と決済してお開きとなりました。
そういうわけですから、現在、シリアでは、「イラク・シャム・イスラム国」と「ヌスラ戦線」の二つのアルカーイダ組織が別個に活動しています。印象としては、ヌスラ戦線の方が地元に根を下ろして地道に活動し、イラク・シャム・イスラム国の方は、イラクでやってきた宗派争いをそのままシリアにも持ち込んで、最近はクルド人殺戮に熱意を傾け始め、アサド独裁政権の打倒という、当初の目的を見失って迷走しているように見えます。
今日になって、アムネスティが、「イラク・シャム・イスラム国を中心とする過激派が、シリアのトルコ国境近くで子ども120人を含むクルド人450人を虐殺した疑惑があり、調査すべき」と、発表しました。この事実は、クルド人組織がまず主張し、これをロシアのメディア「ロシアの声」が伝えていたので、ぼくとしては慎重に見る必要があるなあと思っていたんですが、事実であれば、イラク・シャム・イスラム国はもはやただの無法集団と化したと言えるのかも知れません。
ヌスラ戦線以上に軍事的に強力といわれるチェチェン人主体の外国人義勇兵団ムハージリーンの方にも動きがありました。
最近、反体制派はアレッポ北方の軍事空港を8ヶ月の熾烈な戦闘の果てに攻略したのですが、その主力がやはり、サラフィ組織でした。その作戦で活躍した最大・最強のムハージリーン組織ジェイシュ・ムハージリーン・ワ・アンサールのアミール・アブーウマル・シシャニが、イラク・シャム・イスラム国の北部方面司令官に任命されたと、チェチェンのサラフィ系組織のウェブサイト・カフカスセンターが伝えました。
これまでムハージリーンは、サラフィといってもアルカーイダとは一線を画す立場でしたが、ここへきて最大組織が合流したことになります。また、これまでチェチェン独立派武装組織はあくまで反露の立場であって反米、反欧州、反キリスト教徒全般などではなく、アルカーイダとの関係は薄い、とされてきましたが、アルカーイダに合流した、ということにもなります。
ちなみに、ヌスラ戦線はTwitterのアカウントで、血塗れの死体や切断された人間の頭部などの写真を掲げ、「米国がカリフ国建設を邪魔するなら、こんな目に遭わせる」と、威嚇していました。
ぼくは4月に、もう一つのムハージリーン組織ジャヌード・ル・イスラムに密着取材しましたが、このグループはジャヌード・アッシャームと改称した以外は大きな動きがなく、ジャバルトルクマン地方で、アサド政権を相手に戦闘を続けているようです。