妄想で記事を書くひとびと(その1)

大手紙の紙面が凄まじいことになっている。
朝日新聞は「マスハドフも関与?」と“ロシア諜報機関筋”の垂れ流し。
確かにマスハドフが事件に関与していてくれれば、
ロシアにとってはチェチェンを潰すのに最高に都合がいい。
国際監視下で合法的に選出された唯一のチェチェン共和国大統領
マスハドフについても「旧政権大統領」と、
朝日新聞の脳内ではいつの間にか政権交代があったらしい。
当然ながら、彼らがこれまでこのジェノサイドを
いかに殺害者側の視点だけに立って報道してきたかについての反省など
微塵もない。
FSB(ロシア諜報機関)日本支部と改称するといい。
まあいい。
バカは放置。

しかし、これまで冷静で慎重な姿勢が際だっていた毎日新聞さえ、
「背後にアルカーイダ?」と、どの新聞を見ても「?」のオンパレードだ。
でも、振り返ってみればそれは仕方がないことともいえる。
この3年間、彼らは現場で一切なにも取材してこなかったのだから。
彼らは事実を知りうる立場になかった。
妄想だけが記事のソースだ。
現場には、私ひとりがいた。
私の目には、私自身でなく、いるはずの他の記者諸君が全員、
どこへやら「行方不明」になっていた。

主要紙がこれでもかと書き立てている「反テロ作戦に追いつめられた」
という見方は、完全に彼らの思い込みの産物だ。
確かに去年の911までチェチェン勢力が得ていたイスラム世界からの資金援助は、
事件以降、米国等のイスラム諸団体に対する「テロ組織指定」
「資産凍結」によって、かなりの部分が断たれた。
日本人イスラム聖戦士ハワジは当時、
パンキシ渓谷の難民たちが生活に窮乏していると、国際電話で私に伝えてくれた。
しかし、先細りになるかと思われたチェチェン勢力は、その後むしろ、
第二次チェチェン戦争勃発以来なかった大攻勢に転じる。
彼らはどこからか、十分な武器や資金の提供を受けていたはずだ。
その窓口として、私が自分の目で見た一つはグルジア当局だった。
グルジアには米軍が展開し、莫大な資金援助も受けている。

実は、当の「情報統制下」にあるはずのロシアの新聞には、
日本の新華社通信モドキと一線を画した論調が、ちゃんとある。
チェチェン・ウォッチの渡辺千明氏が
ロシア紙ノヴァヤガゼータの内容を報告してくださった。
(その2へ続く)