キルクーク(その5)

 そのようなサダム政権だけに、ジャーナリストは決してプロパガンダに利用されてはならないはずだった。プロパガンダに利用されることを避けるために全力を傾けなければ、私たちはサダムが犯し続けてきた人類に対する犯罪の一端を担わされてしまう。それは今回の戦争で米国を支持するとかしないことといった問題とは、まったく別次元だ。残念ながら、ジャーナリストの多くは何の抵抗もしなかった。平気でプレスツアーに出掛け、与えられたものを無検証で垂れ流した。プレスツアー自体は、今のところそれによって事実が歪められて伝えられたという話は出てきていない。米国の侵略はあまりに惨たらしかったので、サダム政府はいまさら脚色するまでもなかったのかもしれない。しかし、サダムの追従者たちが「税金」と称した不当な外貨を、何の抵抗もせずに支払い続けたことは、明らかに彼らを利した。4月9日の朝、情報省幹部はいっせいに姿を消したが、その直前に登録ジャーナリストたちにこれまでの「税金」の清算を求めている。情報省は登録ジャーナリストに対して、一日につき120ドル。ビデオカメラ一台につき250ドル。一眼レフカメラ一台につき50ドル。インマルサット衛星電話一台につき250ドルを、「税金」と称して徴収していた。これらの金を集め終わった直後、情報省幹部が姿を消したのは偶然だというのか。ジャーナリストが無責任に恵んだ大金が彼らの逃亡を助けたのは間違いない。(私は情報省にも、情報省管理下のホテルにもびた一文支払わず、タダ宿、タダメシで通した。トクした!)
 油田を独立派クルド人に渡したくないというのが、サダムがキルクークでこれほど過酷な弾圧を行った理由だといわれている。その油田を再び、日本人の「人間の盾」を使ってクルド人に取り戻されまいとしていたとしたら、そんな政策に私たちが加担するのは愚かなことだ。サダムに利用されたジャーナリストの多くと違って、よりサダムに利用されやすい立場にあった「人間の盾」が、そんなことにならなくて本当によかったと思う。