プーチンの弱点

プーチンは虚偽と暴力とテロのプロだが、弱点がある。

彼には経済が分からない。

プーチンがロシアの実権を握ってから23年になる。23年もの時間があったにも関わらず、プーチンはロシアに経済的な基礎体力を付けさせるという仕事を一切してこなかった。

ロシアは、たまたま原油天然ガスが高値のときだけ経済成長し、それがなくなれば歯止めもなく転落してゆく。サウジやイラン以下のモノカルチャー経済で成り立っている。人口は1億4千万もいながら、経済規模は韓国よりも小さく、民衆は貧しい。

一方の中国は、世界の工場であり、世界第二位の経済大国であり、世界のどの国も中国なしにやってゆくことが難しい。

プーチンが権力を握る前、中国はロシアのコピー製品の軍需品を作っているだけの力のない国だった。共産主義体制を続けて来た二つの国は、この23年間で全く別の道を辿った。

23年前から今に至るまで、ロシアは少なくとも、なんでも自前で作れる、運用できる国だ。宇宙ロケットから乗用車、航空機、電化製品、電子機器、すべてロシア製のものがある。性能も、しばしば米国製や日本製、欧州製を部分的に上回る。ただ、それを世界に売ることができない。

ロシアの粗製コピー品を作っているだけだった中国は、今では欧米や日本の製品の部品製造を担い、独自の製品をさらに安価に作って、世界の経済を支配するまでになった。

プーチンエリツィンから権力を移譲されたとき、本来目指すべきだったことは、今の中国の姿だっただろう。

しかし、彼は経済が全く分からなかった。自国の経済を発展させ、回してゆくためには、国民の経済活動を自由にし、世界と一体化させる必要がある。そのためには最低限、移動を自由にしなければならない。プーチンはそれが恐かった。彼は暴力と虚偽しか知らなかったからだ。

ロシアを自由旅行したことがある人はよくご存じだろう。あの国のビザのルールや、都市ごとに義務付けられるレギストラーツィヤ(所在登録)の制度について。つまり、移動の自由がないのだ。外国人どころか、自国民すら、「国内パスポート」を所持させられ、同様にレギストラーツィヤを強制される。

そんなところで、メルセデスAppleMicrosoftが現地企業と協力してよい仕事ができるだろうか?もちろん、ロシアにもメルセデスAppleMicrosoftはある。しかし、ロシアでただ商品を売っているだけだ。ロシアで作って世界に売ることはしようとしていない。

エリツィンはそれを試みていた。完遂できずに病に倒れたが、彼の治世のロシアで、日本のいすゞ自動車や他の企業が、現地企業と協力して、ソ連時代の機能しない非効率なシステムの効率化と近代化に取り組んでいたことを知っている。世界の他の企業も、大なり小なり、同じような努力を続けていた。

プーチンはそれを継承しなかった。改革は止まった。

もし、エリツィンの改革を継承発展して23年も続けていれば、今頃ロシアは中国どころでない世界経済の中心となっていたであろうと思う。

ロシア人はもっと豊かで自由で幸福な生活を享受していただろうにと思う。