祝日(その2)

 ベスランの事件は、チェチェンの抵抗運動にほとんど取り返しのつかない打撃を与えた。チェチェン独立派がこれに関わったとバサエフが発表したことは、それにマスハドフ政府が関わっていなかったとしても、チェチェン独立派全体の性格について、世界中に深い不信と嫌悪を植えつけた。あの事件によって政治的に、チェチェンの抵抗運動はほぼ壊滅状態に陥ったのかも知れない。
 ロシア秘密警察がどう関わっているかは分からないが、ノルド・オスト事件とも、ロシアにとっては自らのイメージをも傷つけながら、相手のイメージをさらに損なうという、肉を切らせて骨を断つかのような情報戦略に成功したことになる。
 ザカエフだって驚いたろう。だって、事件の1ヵ月半前の7月半ばには、「バサエフと我々は方法論が違うだけで、同じく抵抗運動の一角だ」と、バサエフを半ば擁護するような言い方を、私に対してしていたんだから。ベスランの事件の直前・直後だって、彼はいっていた。
バサエフではない。彼のやり方とは違う。彼は我々と考えが食い違っているが、彼は独自に彼のやり方を貫いている。嘘はつかない」
 バサエフの犯行声明が出た後の方が、むしろザカエフの発言は揺れていた。アウシェフの証言とバサエフの声明の内容の矛盾点について、「二人のうち、どちらが信用するに足る人物かということだ。それは、結論から言ってアウシェフだ」といっていた。
 ザカエフが大嫌いなザラだが、バサエフの評価に関しては彼女も同じで、「バサエフと私たちが違うのは、彼がバリケードの前に出て敵と向き合っていて、私たちはバリケードの背後にいるということだけ」と、岡田一男さんに対してむしろ彼を讃えるかのような口ぶりだった。