プリ・プラズニク(その1)

 朝7時半に、安宿パリョートのおかみさんはドアを叩いてくれた。釣銭50ルーブリ分のサービスだと思おう。8時に、タクシーに150ルーブル支払って、共和国国境の検問所へ。タクシストは無線で「サラーム・アレイコム」と同僚と挨拶している。彼はタジク人で、私が片言のタジク語を喋ると、大喜びしてくれた。40年間もタジキスタンに住んできて、5年前にオセット人の妻の故郷へ移って来たという。
 国境の太った強欲そうな制服は、私のパスポートを見ると、いった。
「電話して通訳を呼ばねばならん。3時間は待つことになるな」
 言葉通りの意味にとってはならない。賄賂を要求しているのだ。すぐに通して欲しかったら、心づけをよこせ、と。98年のタジキスタンウズベキスタン国境でもそっくり同じことがあった。だから、当然私は言葉通りにとって見せる。
「3時間だね。待つよ」
 制服は当然、困ってしまった。3時間居座られて、監視されても困るのだ。彼は親切な男に豹変して、わざわざイングーシ側のタクシーを呼んでくれた。今度のタクシストはイングーシ人だが、シベリアに長く住んでいたそうだった。
「私はイングーシらしい顔をしていないだろう。ロシア人と間違えられるんだよ。これは、タクシストをやるには便利なんだ。役人連中が誰も嫌がらせをしてこないからね」(その2へ)