ベスランへ(その2)

 「調べの結果、被疑者日本人は北カフカス合同軍参謀本部広報官シュヴァルキン大佐から国際テロ組織の一員として手配された外国人傭兵と判明。即身柄を拘束してモズドクの本部へ押送」などと、嫌な想像をしているうちに眠ってしまった。今朝早かったので。
 再びドアが叩かれ、開けると、さっきの民警に上官らしい男が伴っている。明日の行き先などを尋ねられ、ベスラン教職員委員会にインタヴューに行くなどと答える。私が答えている間、部下の男は私の荷物を調べている。――それから、よく分からないが、イングーシェチアへゆくかも知れない――と語ると、上官は顔色を変えた。「それは、非常に危険だ。気をつけてな!」
 パスポートを私に返して、二人は帰っていった。今のところ、大丈夫だ。なにもかも、まずいところはない。
 深夜零時過ぎ、雷のような音が外で聞こえた。この音はよく知っている。アスファルトの上を戦車の隊列が進む音だ。
 明日は教職員委員会に行く前に、イングーシェチア行きの交通手段を確認しよう。アフトーブスかマルシルートカがいい。タクシーだと相場はいくらぐらいだろう。タクシーの方が難民キャンプへ行くための融通は利く。しかし、オセット人の運転手では土地勘の問題と、現地の人たちの感情の問題が出てくる。一旦、ナズラニでホテル・アッサかどこかへチェック・インして、それから改めて動いた方がいい。本当は、難民の誰かの自宅に泊めてもらって、生活を見せてもらうのが一番いい。一泊10ドルで交渉してみよう。
 イングーシェチアからモスクワへ戻ることになる。バスか、列車でだ。