無反省文(その3)

 予想通りだったのは、私は彼らの活動によって損害を出し、一方同じ活動によって彼らから多くを得た、ということです。私の方では、「相手方はもっと多くを失うことになる」と書きましたが、彼らは自分たちが私の活動から受けた不利益を自覚できていないのではないかとも感じています。
 FSBからの取材妨害自体は予想の範囲内だったので、私は今回、これまでの取材で知り合ったチェチェンの友人たちにこちらから一切連絡を取らないようにしていました。ですから、拘束されたことでチェチェンの人たちに不利益が及ぶということはないはずです。
 一方、今回の私の最大の手違いは、イングーシでは私の日本語の記事を読める人間はいないであろうと楽観していたことです。このためコンピュータ内に自分の過去の記事やメモ類を入れたままにしていました。実際には、FSBは最初に私を連行した時点ですでに、完璧な日本語の読解能力者をイングーシに配置していました。私からコンピュータを押収し、私が書いたものを読んだ結果、FSBはこのところの私の取材テーマが彼ら自身であり、今回の私の本当の標的がチェチェン難民取材でも、チェチェン潜入でも、独立派との接触でもなく、FSBそのものであったことを知ったはずです。このため、拘束下で私は自分の生命が危険に晒されていると考えていました。

私が受けた損害・不利益は以下のようなものです。

・ 罰金刑を受けたことで支払った現金2000ルーブリ(≒7000円)
・ 拘束中16日間の現地滞在費用およそ25000円
・ 来年1月中旬まで有効のビザを破棄され、使えなくなった。
・ 日本の友人にご心配をかけた。
・ 押収品のうち、デジタルカメラコンパクトフラッシュ1枚、ロシアで購入した携帯電話のSIMカード一式、スラーヤ衛星電話の充電器などを盗まれた。
・ 押収品のうち、ノートブック型パーソナルコンピュータに物理フォーマットを掛けられ、データをすべて破壊・消去された。
・ 押収品のうち、撮影済みビデオテープ3本を消去された。
・ ロシアの体制派メディアへのリークによって私のイメージを損なう虚偽を含んだ報道が流された。
・ 私の取材対象がFSBそのものであることを知られた。
・ 前科が増えた。(国外退去はサダム政権下イラクに次いで二ヶ国目。むしろ『ハク』がついた?)