脱走兵

 「ロシア兵士の母親委員会」を訪れたとき、背の高いロシア人の婦人が痩せたロシア人の若者を伴って事務所のドアを叩いた。サンクトペテルブルクから来た脱走兵と、その母親だった。7月に脱走して、そのままこの3ヶ月間、隠れていたらしい。委員会のスタッフは厳しい調子で母親にアドバイスしていた。「なぜ3ヶ月間もなにもせずにいたのか」と責めている。母親は涙をぽろぽろとこぼした。そして、スタッフが告げる電話番号をメモしていた。それはどこやら医療施設の連絡先らしい。息子は病気で原隊に復帰できない、ということにしようというのか。うまくゆかなければ、息子はまた戦場へ送られてしまう。
 事務所の壁には、ポスターが貼ってあって、こう書いてあった。
「あなたが息子を戦場に戻すということは、墓場へ送るということです」
 ロシアの母親たちがチェチェンの和平のために動き始めたということは、今やほとんどロシアに残った唯一の希望だ。勇敢な彼女たちに、神のご加護を。