ツアー

 駄目なメディアほど市民が紛争地に遊びに行くこと――例えば「人間の盾」のような――を非難する。それは仕方がないことだ。なぜなら、一般市民が自由に戦場に出入りすると、彼らは自分たちが実は大したことがないということがバレてしまうから。迫真の一枚写真を発表したはずが、本当はプレスツアー以外の取材を一切していないということがバレてしまっては大変だ。
 実際、今回のイラク戦争バグダッド残留メディアの中には、プレスツアー以外の方法でほぼ一切取材をしなかった「ジャーナリスト」がかなり目に付いた。一説によると、ジャーナリストというのは権力の監視の社会的役割を担っているらしい。では、ジャーナリストがちゃんと権力を監視しているかどうかを、誰かが監視しなくていいのかしらん。少なくともプレスツアーなんてものは、権力を監視していることには決してならない。権力の方がジャーナリストを監視している。あべこべだ。それに、取材した内容そのものはヤラセでなくとも、取材がヤラセだ。
 自分の取材がプレスツアーによるものであったことを告白する「ジャーナリスト」は少ない気がする。これだけインターネットが発達した現代になっても、ジャーナリスト個人によるリアルタイムの取材リポートはそれほど多くない。それもそのはず、面白くないからだ。
「○月×日、今日はプレスツアーで△◆病院を見学しました。帰って寝ました。
×月○日、今日は情報省が連れてきた市民にインタヴューしました。バスが混んでて暑かった。」
 今回のイラクでは週刊ポストの片野田斉カメラマンだけが現地でのプレスツアーを皮肉った内容の写真を発表していた。彼は「人間の盾」のビザで入国していたから、プレスツアーに参加すること自体が「潜入」だった。
 私は個人的には「人間の盾」にもイラクにもさしたる興味がないが、普通の市民、それも専門家ではなく、そこらへんにいる「へんなひと」たちが、戦場とか災害被災地とかにふらふら遊びに行くことについては、彼らが自己責任でやる限りにおいて大賛成だ。みんなテキトーに遊びに行くといい。そしてなにもかもバラしちゃうといい。そうすると、きっとテレビや新聞に載っていることがどれほどいい加減なものか、分かるようになる。