本多勝一氏はどうしちゃったのか

本多勝一氏はなんだかへんなおぢさんになってしまった。
久し振りに『貧困なる精神』を買って読んでみたのだけれど、
ちょっとガッカリしたよ。

インタヴュー中の写真撮影が気になって困る、
これからは写真撮影を初めの10分間に限るよう、コピーを担当者に配ろう、
なんて書いていて、
その少し後の項では、
自分の人生は既に晩年に差し掛かっているから、
悪意の非難、中傷記事に反論しているヒマはない、
なんて書いている。

ヒマがなきゃ、写真撮影に文句言うヒマに他の取材をすればいいのに。
取材をしなくなったのなら、かねて主張していたように、
もはやジャーナリストじゃないんだから引退すればいいのに。

一生懸命本多氏を非難する右翼論陣の人たちには
後ろめたいところでもあるんだろうし、
そんな躍起になって彼を蹴落とそうとは思わないけど、
なんだかやっぱり、へんなおぢさんになっちゃったなあ、
という一抹の寂しさが拭いきれないのだ。

だって、昔の本多氏はカッコ良かったから。
いまだに私は、氏が当時書いていたことを忠実に守ろうとしているつもりだ。
ベトナム戦争を取材した『戦場の村』の中で詳しいが、
氏は西側世界のジャーナリストの中でただ一人、南ベトナム解放戦線に従軍した。
ベトナム戦争を従軍取材したジャーナリストはいっぱいいるし、
銃弾飛びかう中を駆け回って取材した彼らからすると
今時のジャーナリストは前線に行かないし気骨がない、
なんて言う人もいるけれど、
私に言わせると「ばーかばーか。たいしたことないよ」ってなもんだ。
だって本多氏以外のみんなは、米軍に前線まで
連れて行ってもらっただけじゃないか。
ベトナム戦争は、米軍がベトナムに侵攻した戦争なんだから、
侵略されたベトナム側を取材しなければ十分でない、
というのが彼の意見で、学生だった私は
「そりゃそうだよなあ」と感心したものだ。
それに、戦争報道で最前線のルポがないのはおかしい、という彼の意見にも、
「すげえなあ。カッコ良いなあ」と憧れたものだ。

そして今、当時の彼の主張を真に受けて、
私はロシア軍ではなくチェチェン人の部隊に従軍し、
アフガニスタンではマスード派とタリバンの双方に従軍し、
警察取材では警察に取り締まられる側を取材し、
HIV薬害事件でも役所や医者の言い分だけでなく、地元の被害者を取材した。
(続く)