超法規(その3)

彼らは、これからニュースで流れるであろうような大きな出来事を、
なにかしら知っているらしいのです。
この会話で私が気になったことは二つありました。
チェチェンを巡っては、毎年夏の間戦闘が激しくなり、だいたい秋までに、
モスクワ劇場占拠事件だとか、ベスランの学校占拠事件だとかいった、
凄惨な事件が起こってきたのです。
もうひとつは、4年前、2001年の夏から秋に掛けて、グルジア軍当局が主導して、
チェチェン独立派が駆り出されて、国際法違反の
アブハジア侵攻作戦が行われたことです。
これはグルジア秘密警察の謀略の成果でした。
私は会話内容をパンキシのチェチェン人たちに伝え、警戒するようにいいました。

私はグルジアという国は、自分にとっても、チェチェンにとっても
敵ではないと思っていました。
4年前は確かに、グルジア秘密警察は私の命を奪おうと計画していた節がありました。
それでも、その理由は私がグルジアに敵対者だからではなく、
単にグルジア秘密警察がまずい仕事をした結果、
不測の事態として私に知られてはならない事実を知られてしまったからです。
いわば、イレギュラーケースでした。
もちろん、イレギュラーケースで消されていてはこちらはたまらないのですけど。
それでも、ロシア帝国の侵略、ソ連の強権支配、現在のロシアによる政治的圧迫に
苦しんできたグルジアにとって、チェチェンは単にカフカスの兄弟民族
というだけに留まらず、利害の一致を見る政治的同胞だと考えていました。
確かに、今のグルジア秘密警察が本当にグルジア
パトリオット集団だとしたら、彼らはそうなのかも知れませんが、
秘密警察というものは往々にして、特に旧KGBの流れを汲むものにいたっては、
愛国者の集団というよりも、利権集団であり、力そのものに取り込まれてしまった
人々の集団に成り果てていたりします。
彼らは必ずしも、サアカシュヴィリの今の政府の方針に従っていないかも知れません。
その場合、最悪彼らはグルジア国益ではなく、
彼ら自身の利益に図って行動する結果、現在グルジアへの先制攻撃すら
口にしてはばからない「敵」のはずのロシア秘密警察に協力している
可能性すらあると、私は疑っています。
そういうことは往々にしてありえるのです。
なにしろ、日本の秘密警察ですら、自国を占領しているロシアの秘密警察に
公式に堂々と情報を垂れ流しているのですから。