トルコの医療(その2)

午後2時に宿を出て、路面電車と船とミニバスを乗り継ぎ、さらに歩いて病院へ。2時間掛かりで病院に到着する。悪い予感は的中した。主治医は私の股間の包帯を無理矢理引っ張り剥がし、せっかく閉じていた傷口をまた開いてしまった。流血。当然ながら、痛い。初めて私は気づいたが、この医師は何も私が憎くてこんなに乱暴に傷口を扱っているのではない。ただ、異常なまでに不器用で大雑把なのだ。股間から血を流し、うめいている私に向かって医師は言った。
「ベリーグッド!」
ベリーグッドって、そんなわけはないでしょう。こんなに膿を持って腫れ上がっているのが見えないというのか。しかし、医師は「ノーインフェクション」といって譲らない。もう包帯は要らない。何もしなくていい。風呂で普通に洗いなさい、と。自分の処置が原因で患部が化膿したという事実を認めたくないのだろう。それにしても、ひと言の英語も分からないこの医師は学校で何を学んできたのだろう。
私はせめて、消毒をしてもらえるよう頼んだ。しかし、医師はこれも拒否した。だって、傷が開いて流血してるんだぜ。保健室じゃ擦り傷でも消毒ぐらいしてくれるだろう。これじゃ、まんま診療拒否だ。
なんの治療もしてもらえないまま礼だけ述べて、私は病院をあとにした。しかしすぐに踵を返して、併設されている薬局に入った。医師が治療してくれないなら、自分で必要な医薬品を買って、自分で治そうと思ったのだ。驚いたことに、薬局には昨日の美人の女医さんがいた。私が事情を話すと、彼女は薬剤師に指示して、おそらくこっそりと、抗生剤入りの塗り薬を処方してくれた。助かった、と思った。