コソボのロマ

 食事はまずいといったけど、昨夜のブロッコリースープは実にうまかった。メインディッシュのひき肉とトマトの煮込みはまずかったけど。
 食後、部屋に戻ろうとしたら、ハダカにタオル一枚の男が呼ばわった。
「階下の太ったベトナム人のところへいって、部屋の鍵を取ってきてくれないか」
 彼はシャワーを浴びている間に、食事に行ったルームメイトに締め出されてしまったらしい。
 夜、コンピュータルームで彼と再会した。英語を話す彼はここでは数少ない会話が成り立つ隣人だ。彼はコソボ出身のロマ民族(ジプシー)だった。ちょうど、コンピュータがダウンしてしまったので、彼と二時間ほど話し込んだ。ロマ民族について私はまったくの無知だったが、彼の説明が要領を得ているので、あっという間に博識になった気がした。ロマのほとんどはカソリックなのかと思い込んでいたら、コソボのロマの97パーセント、ブルガリア、トルコのロマのほぼすべてはムスリムなのだそうだ。ロマ語の基礎的な語彙も教わったが、なるほどヒンディと共通のものがいくつもある。欧州のロマ民族ルーマニアからの流民が多い為、ロマ民族の研究にはルーマニア語が必須だと聞いたことがある。確かに、文化面を研究するにはルーマニア語が要るのかも知れないが、印欧語族の基礎的な言語学知識がなければ踏み込んだ研究は難しいだろうと思った。
 彼は彼で、イスラムに改宗した日本人に興味を持ち、「ここにいる間にビデオカメラを持ってくるからインタヴューさせてくれ」といってきた。それも面白そうだ。
 宿舎の前にボランティアスタッフの黄色いシトロエン2CVが停まっていて、欧州へ来るのが久しぶりの私は、ずいぶん久しぶりにこの車を見掛けた。見れば見るほど美しいなあと思う。薄く雪をかぶったジュネーブの森を抜けて、宿舎の前につけるまで見ていたが、実によく風景と溶け合ってうっとりとさせられる。ちゃんと走るのかどうかは知らないが、こういう見目麗しい工業製品を作れるフランス人は、やっぱりおフランスなんざんすねえ。
 SUZUKIカタナのハンス・ムートやフォードのシド・ミードあたりじゃなく、シトロエンの工業デザイナーにガンダムASIMOをデザインさせてみたいものだ。(えりねこさん、工業デザイナーの人名間違いご指摘、ありがとうございました)