たまたま(その1)

 ロシアでの記者への嫌がらせというのは、射殺や毒殺といった極端な
ものもあるが、多くはなんだかよく分からない、気のせいじゃないの?
といわれるような方法で行われる。即ち、いろんなことが突然、うまく
ゆかなくなるのだ。たまたま、借りていたアパートの契約条件が
変わったり、たまたま、空き巣に入られたり。たまたま、散歩中に
ジャンキーに絡まれたり。
 似たようなことは、長崎時代にもあったが、あれは本当に「たまたま」
だったんだろう。私は長崎県警と地元暴力団の癒着と、県警の組織的な
内部犯罪を追いかけていた。そうしていたある正月の二日、電話が
鳴ったので、取ったら切れた。と思ったらアパートの呼び鈴が鳴った。
ドアを開けると、見知らぬチンピラがいて、「お前はおれを馬鹿にした。
落とし前をつけろ」という内容のことを、原語では外部の人に
理解できないような長崎弁の、さらにヤクザ言葉でいう。思うに、
彼自身は私が何者かすら聞かされないまま、パシリとして使わされた
のだろう。当時我が家の近くにあった暴力団事務所のことを語って、
そこに私を連れてゆくといっている。組長のM氏のことは、当然ながら
私はよく知っているが、チンピラの方は知らなかったみたいだ。
「正月の二日にMさんをお邪魔して、指でも置いて帰るか」と
水を向けたら、向こうの方が怖気づいてしまった。結局彼は
私に詫びながら帰っていった。長崎県警なんて、この程度のもんだ。
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