モスクワのムスリム

 非戦闘員、イスラム戦士の別を問わず、チェチェン人から反米的な発言を聞いたことはない。それが、今回モスクワに来て2週間、ロシア人の口からも、アゼルバイジャン人の口からも、他の少数民族の口からも、わざわざ日本人の私に米国の悪口の同意を求められた。モスクワではチェチェン人は、米国の悪口も特に言わないが、ロシアの悪口も言わない。黙っている。黙らざるをえないのか。
 昨日は再びイマム・シャミルが建設したモスクワ中心部のモスクの地下で、ヴァイナフのズィクルを見学した。ここでは7年前から、毎週水曜日と日曜日の夜に、ズクルが営まれている。それ以前は別の場所で続けられていたそうだが、規模は今よりも小さかったそうだ。
 毎日新聞の敏腕記者S氏にも来ていただいた。
 先週、このモスクで知り合ったアゼルバイジャンの自動車商の青年からは、このモスクではなく、プロスペクト・ミーラにある別のモスクに来るよう、誘われている。が、彼が米国の悪口を言う話に付き合うのが、私は面倒くさい。悪口を言うだけで、なにかするというわけじゃないのだ。他国の悪口を言うのは安全だし、簡単だ。米国がイラクで殺しているよりも多くを、彼らの国でロシアは殺しているというのに、それに口を挟むのは危険だし、商売にも響く。日本にも似たようなのはいっぱいいる。東京でサラリーマン稼業の帰り道に一杯やりながら北朝鮮だのブッシュだのの悪口を言って、何か変わるわけではない。もし、このアゼルバイジャン人か、日本の疲れたサラリーマンがビン・ラディンの仲間になるとでも言うのなら、私は喜んで取材に行くのに、そういう面白い話はないんだよな。
 イマム・シャミルが作ったモスクには、カフカスムスリムが多く集まる。ここに併設されているカフェでは、ポロフやラグマン、マントゥといった中央アジアの料理が、ビンボー人価格で食べられる。プロスペクト・ミーラには、トュルクの人たちが多いという。