モスクワへ

 ノヴァヤガゼータのアンナ・ポリトコフスカヤは旅客機内でお茶に毒物を盛られ、殺されかけた。その上司でノヴァヤガゼータの編集長だったシチェコチヒンは前年にやはり毒殺された。自由ラジオのアンドレイ・バビツキーは誘拐されて殺されかけたし、ヴェルシアのアルチョム・ボロヴィクは小型航空機ごと墜落して死んだ。プーチンが権力を握って以来、ロシアで殺害されたジャーナリストは15人に上る。
 ロシアでは決して迂闊に飲み食いをすまい。特に旅客機内では出されたものに手をつけまいと心に決めて、成田からアエロフロートに乗った。しかし、機内食がいかにもうまそうで、たちまち心の弱い私はこれを平らげた上、隣の山崎編集者の分まで食べてしまった。お茶は飲まなかったものの、珈琲をお替りした。
 緊張感を失ったら、負けだ。そう心に言い聞かせて、今では私は拾い食いだけはすまいと、硬く心に誓っている。