正反対(その2)

今回の事件では、ウマロフが実行者だとすると、不自然な点がある。
彼はチェチェン最大の勢力を率いる野戦司令官であり、
わずか20人やそこらの手勢を率いて、リスクの高い冒険的な作戦を
取る必要がないのだ。
彼なら、今回の100倍の戦士たちを動員して、必要とあれば連邦内共和国の
省庁を一つ丸ごと壊滅させることも乗っ取ることもできるし、
実際に、つい最近もそうしてきた。
わずか24歳のモフサル・バラエフですら、40人のグループを率いて
モスクワの劇場を占拠したのに、これが本物のウマロフだとすれば、
わずか20人で子どもを人質にする理由がないはずなのだ。

劇場占拠事件のバラエフには、叔父と叔母が戦いで殉教し、家族の
「血の復讐」を果たし、自らも殉教者となって、名誉を守るという、
自暴自棄の近い作戦を選ぶべき明確な動機があった。
しかし、まったくの無名から独立派の「大臣」にまで成り上がり、
連戦連勝のウマロフには無茶をする必然性がない。

それに、劇場占拠事件の失敗から、人質を取って「ロシア軍の撤退」
を要求する作戦が無効だと、ウマロフならばとっくに知っているのに、
今回もまったく同じ要求をしているという。

私たちは今後、事件の推移を注意深く見守らねばならない。
実行者が本当にウマロフなのか?
それは単に秘密警察FSBがそう発表しました、という形でなく、
疑いのない形で私たちにも確認できるものかどうか?
そして、以前、モスクワの劇場にテルキバエフがいたように、
今回どこかにロシアのスパイが入り込んでいないかどうか、
そして事件の実行方針に影響を与えて、操作していないか、
ということだ。

今のロシアでは、事実は往々にして正反対だということが、とにかく多い。