悪夢

相澤くんと朝食を取っていたら、豊田直巳さんがみえた。
戦争中に会ったときよりも髭が生えて少し痩せて、精悍な感じがした。
S紙のA記者もみえた。

11年前にクルディスタンで食べたパチャは
すごく美味しかったんだけどなあ。
バグダッドではまだ、あのときほど美味しいパチャに巡り逢えていない。

すごくいやな夢を見た。
私はチェチェンのゲリラと一緒に山の中を歩いていた。
実際の行軍のときと違って、険しい道ではなかったが、
なぜか私はズボンを穿いていなくて
下半身がパンツなのだった。
その上、ここだけ妙にリアルなのだが、私はホテルのフロントに
パスポートを預けたまま来てしまって、失敗したなあ、どうしようかなあ、
あとできっと困ったことになるぞ、と考えているのだった。
ホテルのフロントにパスポートを預けているというのは、
ここバグダッドでの実際の話だ。
私たちはどこか、目的地に到着して、数百人が並んで座っていたのだが、
私が仲良くしていたグスリク(実在)が、離れ離れになっていた弟と
ここで再会した。
喜び合う光景を期待していたら、グスリクはポケットからナイフを出して、
弟ののど笛を切り裂いて、殺してしまった。
その上、次は私に向かってきたのだ。
私はあわてて走って、彼の凶刃を逃れた。
そこで眼が覚めた。

午後、やっちと村岸由季子さんを襲撃した。
村岸さんは自宅ビルの階段を掃除しているところだった。
すごく元気そうだった。
彼女はユーフラテス河に面した一等地のフラットを借りて、
腰を据えてバグダッドに住み始めた。
彼女のフラットは、それはそれはきれいだった。
何か美味しいものをご馳走してあげようと思っていったのに、
こちらが夕食をご馳走になってしまった。
村岸さんの作った焼きナスとスパゲッティは、それはそれは、
えもいわれぬ味だった。
「スパゲッティって、茹でたあと、水で洗うんでしたっけ?」
「洗わない洗わない」
「じゃ、炒めるんでしたよね」
「……」
ナスは炭化していた。

村岸邸にいる間に、川向こうの官公庁街で爆発音がした。
迫撃砲か何か打ち込まれたようだ。
夜、カサブランカホテルにいるときも、南の方で爆発音がしたあと、
近くで機関銃らしい銃声が立て続けに聞こえた。
がんばっている人がいるんだなあ。