バグダッド概観(その3)

戦後、市内のタクシーやホテルの料金が跳ね上がっている中で、
こうした値段はあんまり変わっていないようだ。
高級ホテルのレストランでは同じメニューの値段は市内の2倍程度。
なぜか味はぐっと落ちるのだが、これはどうやら高級ホテルでは、
分かってないのに無理に「欧米仕様」にしようとするせいらしい。
例えば、イラクにはとびきりうまくて安いアラビアコーヒーがあるのに、
高級ホテルでは敢えてネスカフェを出したりする。
現地のカフェで出す思いっきり濃厚で甘いチャイの代わりに、
リプトンのティーバッグとお湯を持ってきたりする。
アラビアコーヒーも欧米人の味覚に合わせたつもりか、
非常に薄かったりする。
クズィのピラフはなぜかボウルで型を取って伏せたプリンみたいに
なっていて、安っぽい食堂の旗の立ったお子様ランチみたいだし、
大衆食のパチャなんて、下賎すぎるとでもいうのか、
まずもってメニューにない。
高級ホテルに篭城した大手メディアや占領当局の人たちは、
こんなに豊かで美味しいイラクで一番ひどい食生活に
甘んじているのかもしれない。

イスタンブルの果物は意外にちっとも美味しくないのだが、
バグダッドもそうだ。
美味しいオレンジは地元産ではなく、外国からの輸入品ばかりで高い。
カフカスとか、中央アジアとか、果物が美味しいところで仕事したいなあ。

昨日はアル・サフィール・ホテルのロビーでバンコク在住の
鈴木正男さんにお会いした。
JINネットの秋山さんと一緒に仕事していらっしゃるらしい。
鈴木さんとは、去年の3月から4月に掛けて、空爆下のバグダッドで、
フリージャーナリストの橋田信介さんも一緒に仕事をさせていただいた。
その挙句、二人ともバース党に目をつけられ、
一緒に国外退去になってしまった。
橋田さんは最近、「イラクの中心で、バカと叫ぶ」という本を
出されたのだが、私は出発準備にかまけてまだ読んでいなかった。
「読まない方がいいよ」と、鈴木さん。
「バカにされているから。ぼくもバカにされちゃった」
橋田さんになに書かれちゃったのだろう?
心配だなあ。
誰かこっそり教えてください。

ぼけーっとアホ面提げてサドゥン大通りを歩いていたら、
後ろから誰かが「シャミル!」と大声で呼ばわる。
振り返ると、5月の取材時にマジャリス・バグダディヤホテルで
一緒に過ごしたフランス人フリージャーナリストの
ジャン・フィリプだった。