愛人とモトカレ(その1)

今日は前川氏の原稿の最終締め切り日だ。
夕方までに原稿をあげるから、ロフトプラスワンに打ち合わせに行こうと
氏から提案されていた。
ロフトプラスワンでは今日、前川氏のかつての愛人I氏の
ライブがあるとのことで、私は心中穏やかでない。
前川氏ときたら、I氏のことを「モトカレ」とか、
「元愛人」などとはいわない。
単に「愛人」と呼ぶ。
こういうセンスに私はまだついてゆけず、聞く度にぎくっとする。

彼女の自分に関する説明は私にはとてもとても難解で、
「自分の妻or恋人が他の男に口説かれると男は鼻が高くなる」
と信じており、それがトロフィワイフというものであると考えている。
「嫉妬されるのが好き」でありながら、
「人前で嫉妬しているところをみせるのは、
前川麻子の恋人として周囲から低く見られる」と信じている。
それでいて、「自分は苦しいから嫉妬したくない。
もしも嫉妬させられたら、その人のことを信じられなくなる」。
(違ってますか?違ってたら訂正してください。
私はひょっとすると、ぜんぜん理解していません。前川サマ)

前川氏は夕方までに原稿を書き上げられなかった。
そこで、夜の予定を一部キャンセルして、ロフトプラスワンから戻ったら
徹夜で原稿を書き上げるということになった。
「愛人I」氏に会うことが、私にとってはどこかハラハラする
ことだったのだけれど、実は彼女にとっては別の懸案があったらしい。

それが分かったのは帰り道だった。
私はよく覚えていないけれど、前川氏宅へ向かう私たちの前を
赤い車が通りかかったそうだ。
それは、前川氏の「モトカレ」で、彼女が今も愛しているという
T氏のものだった。
T氏からの携帯電話を受けた彼女は、私にバーで待つよう言い残して、
一人歩み去った。
酒も飲まないのに一人で知らないバーに入りたくなかった私は、
コンビニで立ち読みをして時間をつぶした。
その間、前川氏とT氏の間にどんなやり取りがあったか知らない。
(その2へ)