クルディスタン(その1)

 朝から田中う〜さんらとタクシーで北部クルディスタンへ向かう。バグダッドから北部に伸びる幹線道路沿いには、南部幹線道路や西部幹線道路と同じように、破壊された戦車の残骸が数え切れないほど転がっている。他の幹線道路と違うのは、戦車の砲塔がどれもバグダッドの方向を向いていることだ。つまり、外から侵攻してきた米軍にやられたのではなく、すでにバグダッドを攻略し、さらに北部に向けて追撃してきた米軍にやられたのだ。ほとんどは黒焦げになって、原形をとどめていない。破壊にはやはり劣化ウラン弾が使われたのだろうか?子供の遊び場になっているものもある。
 中には破壊されないまま、放置されているものもあった。敗北を悟って乗組員が逃亡し、捨てられたのだろう。
 キルクークへの道の手前に、今度は米軍の戦車が多数配置されていた。全て道路の向かって左側、つまり西側で、砲塔を東に向けている。つまり、イラン国境の方角だ。東に何があるのか?目を凝らしていると、何かの施設が見えてきた。みすぼらしげなテントが見える。
「ムジャヒディーン・ハルクだよ」
 クルド人の運転手が英語で言った。驚いた。イラク国内で活動しているイランの反体制組織ムジャヒディーン・ハルクは、シーア派ムスリムだ。だから活動地域はシーア派の多いもっと南の地域だと思っていた。それに、今回の戦争中は一度米軍の攻撃を受け、のちに停戦協定を結んだ。協定を結んだはずなのに、米軍はこうして戦車砲を向けて威嚇している。それになんだ。幹線道路を挟んで反対側に配置している。ここを通る車両は「人間の盾」にされているというわけだ。
 ムジャヒディーン・ハルクは取材できないのかなあ?
 キルクークの手前のドライブ・インで昼食をとった。クルド人のスタッフが営むレストランだ。よく煮込んでやわらかくした羊肉の固まりと野菜や肉のトマト味シチューをライスに掛けて食べる。ライスはイランのパラオと同じもので、塩と油を入れて炊き込んである。バグダッドのアラブ料理よりも美味しい。料金は一人6000ディナール(およそ360円)と、その分高かった。
(その2へ続く)