取材許可

サラムは食卓でいった。
「ハムザートはおまえの取材を全面的に認めた。
どこへゆくも、何をするも、自由だ」
「じゃ、私はチェチェンへゆきたい」と、私は答えた。
アゼリー人の戦士サナンは、私に戦闘帽をくれた。
赤い地に白い糸で「アッラーの他に神はなく、ムハンマドはその使徒である」と
アラビア文字の刺繍が施してある。
「その帽子を被っているときは気をつけなくてはいけない。
汚れた場所にゆかないように。トイレにゆくときは脱ぐんだよ」
サナンはナゴルノ・カラバフの出身で、アルメニア軍に故郷を追われた。
両親はバクーに住んでいる。
モスクワへ行く、といって家を出てきたそうだ。
「いつモスレムになったんだ?」と聞かれて、「去年2月だよ」と答えると、
マスウドとアプティが、「じゃ、サナンより先輩じゃないか!」と笑った。
サナンはもちろん、生まれたときからのモスレムだが、
ここに来る2ヶ月前まで礼拝のやり方も知らなかったそうだ。
チェチェン戦争が始まるまではみんなそんなものだったわけだが。
サナンはアゼルバイジャンではシーア派だったが、
ここではスンニー派の教義に従っている。

皆装備を検め、出発の準備をしている。
私はアプティに伴われて太っちょの方のシャムスディンの家を訪ね、
軍服を一式与えられた。
革の軍用ブーツのしっかりとできていることに驚いた。
彼らによると、「耐地雷ブーツ」だそうだ。
無傷では済まないにしても、地雷の種類によっては、
被害を軽減することができるかもしれない。

ジローさんに戴いたフォーサイスの小説「オデッサ・ファイル」を読む。
面白い。しかし、ストーリーにどっぷりと浸って、ふと我に返ると、
現実の光景の方がずっと奇なることに気づく。
私の枕元にはいつも、ティグル・スナイパーライフルと
RPG対戦車ロケットランチャーが積んである。

私はアルマン・バカエフの部隊に入れてもらうつもりでここへ来たが、
今、パンキシはハムザートが事実上指揮権を握っていて、
私は自動的にハムザートの指揮下にいる形らしい。