尋問

昼過ぎに起きて、外務省領事部へVISAの受け取りに行こうとしたら、
シラゼおばあさんに呼び止められた。
「パンキシへいったなんて、誰にも言ってはいけないよ。
昨日、警察だとかいって、電話が掛かってきたんだよ。
『そこにジャーナリストはいるか?パンキシへ行ったものはいるか?』
って訊くじゃないか。私は怖くなったよ。
『ここにいるのは、ただの学生ですよ』って、答えておいたけどね。
いいかい。くれぐれもパンキシへ行くなんていっちゃいけない」

領事部の窓口で要件を告げたが、私のパスポートはまだ
用意できていないらしい。
私はいつものことだと気にも留めずに、ハトゥナの店で1時間、
インターネットを使って時間をつぶした。
午後3時過ぎに領事部へ戻ったが、まだ私のパスポートはないという。
どれぐらい待っただろう。
名を呼ばれ、告げられた。
「訊きたいことがある。待っていなさい」
再び一時間も待ってから、私は奥の部屋に通された。
「君は何者だ」
「写真家です」
「ここで旅行しているのか、それとも働いているのか?」
「写真を撮っています」
「誰かに雇われているのか」
「いいえ。撮った写真を雑誌に売るのです」
「使っているのはカメラか、それともビデオか?」
「どちらも持っています」
「何度もグルジアへきているな」
「そうです」
パンキシにいったかどうかを訊かれると、私は覚悟していた。
そのときは嘘をつくつもりだった。
しかし、彼らの口からはパンキシという言葉も、
チェチェンという言葉も出なかった。

「よろしい。また明日来てくれ。VISAを発行する」

領事部を出て、近くのカフェでオーストリを注文し、
ぺこぺこの腹を満たしながら時計を見ると、6時半を回っていた。
パンキシへ戻るのは一日遅れることになってしまった。