現像事故

写真の現像ができた。
結果は、逆光撮影や夜間のフラッシュ撮影はほとんどうまくいっていない。
逆光では、考えていたよりもずっと大きな露出補正をすべきだったようだ。
それに次は、やはり適当な望遠レンズを一本持って行こう。

フィルムの一本がほぼ丸ごと露光して、何も写っていない。
現像店の店員によると、コダクロームの現像を下請けに出した店で
事故があったとのこと。

失われたフィルムに何が写っていたか、帰宅してから思い出した。
エルサレムの新門の外で、物乞いをしていた小さなパレスチナ人の少女だ。
6歳か7歳だろうか、大した人通りもない坂道に、一人座っていた。
通りかかった真っ赤な洋服を着た同じ年頃の姉妹が、この子に何か話し掛けた。
たぶん、「なにしてるの?」とか、いったのだろう。
少女は答えたが、声があまりに小さくて、聞き取れなかった。
姉妹が通り過ぎるのを、目で追っていた。
広大な坂道と小さな少女、そして向こうに見えるエルサレムの街並みが
あまりに天啓的な調和を見せていて、私はカメラを構えた。
しかし、レンズを見ると、彼女は目を伏せた。
目を伏せた少女は、いよいよ彼女の境遇を全身で体現する絵画となった。
私はハイエナの指でシャッターを押し、
それから偽善の10シェケル硬貨を彼女に渡した。
彼女は笑わなかった。

コダクロームの現像店では、私のフィルムを機械に通している最中に
異常事態発生の警報ブザーが鳴った。
スタッフは慌てて、機械のカバーを開き、
その瞬間、可視光線がフィルムの中の少女の姿を
きれいさっぱり焼き尽くしたのだろう。
フィルムが失われたことで、なんだか証拠を隠滅したような気がした。
しかし、あの少女をもう一度見たいという気持ちも消えない。

現像店は、補償として未使用フィルム50本をよこすそうだ。