エチオピアのダメ人間(その5)

「州都マカレでパーミッションが取れなかったのですが、私は観光VISAを持っていました。有効期限が残っていたので、取材のためではなく、観光旅行者としてアクスムを訪ねたのです」
「観光であれ、取材であれ、外国を訪問するときは街ごとのパーミッションが必要だろう?アメリカでもそうだし、日本でもそうじゃないか!」
これには面食らってしまった。
「いいえ。日本でも、大抵の国でも、必要ありませんよ」
「戦車を撮影したのはなぜか?」
「窓から見て、興味深いと思ったからです」
「軍事施設と商業銀行は撮影禁止だ。そんなことは国際法で決まっているだろう!」
国際法?日本でもアフガニスタンでも戦車の撮影は問題ありませんよ」
「そういう事をいうもんじゃない」
ハヤロムはますます困った顔をした。聞き分けのない子供を見るような顔だ。
「君は違法にティグレ州に入り、違法にアクスムを訪ねたのだ。その上、違法に戦車を撮影した。いったい君のセキュリティという問題に対する認識はどうなっているんだ?こういう事件をしでかしたことに対して、どう考えているんだ?申し訳ないという気はないのか?」
すぐにハヤロムが謝罪を要求しているということが分かった。
「ごめんなさい」
この一週間で謝るのは何回目だろう。学生時代にアルジェリアで治安警察に捕まったときは、向こうが謝ってきた。
「せっかく我が国を訪問してくれた君にこんな不自由な思いをさせてまことに申し訳ない。が、理解して欲しい。今は非常事態なのだ」
イランでも、イラクでも、現地の警察や軍隊の取り調べを受けたことはあったが、
謝罪をさせられたことはなかった。必ず向こうが訪問者に対する非礼を詫びるのだ。
しかし、エティオピアではこちらが謝罪を要求される。アクスムでも、マカレでも、私は何度も謝った。こちらが謝らなければ、いつまでも座らされている。マカレの警察本部では調書にまで「ごめんなさい」と書かされた。
私は違法は承知の上で必要と判断した取材を敢えてしたに過ぎないのだから、後ろめたさを感じる必要はないはずだ。いわば確信犯だ。だが、「ごめんなさい」を繰り返しているうちに、自分が本当に問題児であるという気がしてきた。手に負えない生徒を持て余すようなハヤロムの視線が痛くなってきた。良心の囚人なんてものとは程遠い心境だった。