エチオピアのダメ人間(その4)

これは嘘だった。パーミッションを取らなければエティオピアではジャーナリストの取材は認められない。といいながら現実には、情報省で前線取材を申請した外国のジャーナリストたちは首都アジスアベバで待たされたまま、一歩も動けずにそのまま帰国する羽目になっていた。パーミッションなんて取れはしないのだ。
この国では国営放送のトップが情報省のスポークスパーソンを兼ねている。役人は当たり前のようにプロパガンダという言葉を使う。91年にメンギストゥの独裁政権を倒し、この国は民主化したといわれていた。確かに民営の新聞も発行されるようになり、民営テレビ局も法律上は許されるようになった。しかし、実体としては報道の自由というほどのものはないに近い。全ては情報省の統制下にある。
今回のエリトリアとの国境紛争にしても、軍事的に優位に立つエリトリアから一方的に侵攻されて、夥しい市民と兵士を殺害されているのだから、エティオピアは堂々と国際社会に自国の立場と現状を訴えればいいのだ。エリトリアの情報省がどんどんジャーナリストを受け入れて、トップがテレビにも出演し、最前線の映像も世界に流れているのに対して、エティオピアからは何一つ情報が出ない。実際にはエリトリアには新聞発行の自由もないし、最近では大統領が閣僚をどんどん更迭して独裁化の傾向が認められるのだけれど、一見エリトリアの方が自由な国でエティオピアは鉄のカーテンに閉ざされた悪の帝国のような印象を与えてしまう。その上、秘密警察PIの存在だ。
エティオピア人は自分で自分の首を絞めている。要領が悪いに違いない。
しかし、エティオピア人の処世術が下手くそだからといって、両国の紛争を取材しようというジャーナリストが、プロパガンダに乗っかって彼らに都合のいい情報だけを取材するというわけにはゆかない。或いはエリトリア側が取材し易いからといって、当事者の一方だけを取材するわけにもゆかない。そういうわけだから、私は観光旅行者になりすまして、パーミッションなしで近づけるところまでエティオピア側から戦闘地域に近づこうとしたのだった。
ハヤロムの尋問が続く。
パーミッションなしでアクスムへ行ったのはなぜかね?」