エチオピアのダメ人間(その3)

ぜんたい、カシミール問題とエティオピア・エリトリア国境紛争を関連付けて考えるエティオピア人の思考パターンは理解し難い。私は街で市民と話しているときも、カシミール問題について何度か意見を求められた。彼らはパキスタン側のイスラム戦士がカシミールのインド支配地域に侵入した事件と、エリトリア軍がエティオピア支配下のバドマ地区に侵攻した今回の戦争を「同じようなこと」と考えているらしい。みな熱心にパキスタンを非難する。エリトリアのイサイアス大統領とパキスタンナワズ・シャリフ首相が手を組んでエティオピアを破壊しようと企てている、といったら彼らは信じるだろう。
それにしても、エティオピア人はあらゆる意味でアフリカ人らしからぬ人々だ。ブラック・アフリカ、ホワイト・アフリカを問わず、アフリカの人々といえば、陽気で、歌や踊りが大好きで、いい加減で、くよくよと思い悩むことのない人々という印象があった。ところがエティオピア人はある意味ノリが悪い。酒場ではいつもガンガン音楽がかかっているのに、誰も踊ろうとしない。喋るでもなく、じっと虚空を見詰めてグラスを傾けている男たちばかり目に付く。誰もがやたらと細かいことにこだわる。私のパスポートのパキスタンのVISAにしてもしかり。ローカルバスの乗客は「冷たい風は体に悪い」とどんなに暑くても窓を開けないし、ぜんたい戦車の写真の1枚ぐらいいいじゃないか!?
そのかわりというべきか、とても真面目だ。市民との話題も社会問題になり易い。そしてアフリカで唯一、ここには汚職が見られないのだそうだ。確かに私を取り扱った警察官らは皆礼儀正しく、まどろっこしいほど真面目に仕事していた。マカレで取られた調書の質問の中には「あなたを調べた警察官の行動に不審な点はありませんでしたか?」というものまであった。汚職防止だろう。
しかし、その真面目さのせいで、私はとんだ面倒臭いことになってしまった。
「なぜパーミッションを取らずにティグレ州に来た?」
「州都でパーミッションが取れると思っていたからです」