詐欺師(その3)

マスード派がいたとき、最前線の村は完全に無人だった。しかし、今は道路沿いの小さな家に子供が二人だけ帰ってきているのを見つけた。通りに面した縁側にタバコや石鹸などを並べて商売しているらしい。
「なぜ今まで帰ってこなかったの?」
マスード派がいたから」
マスード派がいると帰れないの?」
「店を荒らすんだ」
廃虚の村に入ってみると、確かに略奪の跡があった。鍵が壊され、戸棚は引き倒され、残った家具が散乱していた。
ハーナバードへ戻る途中、白い旗を立てた大型軍用車が通りかかった。中には長い顎鬚が見える。タリバンの幹部クラスらしい。私の前で停まる。幹部クラスらしい男が私がここにいることがおかしいと気づいたらしい。
車から降りてきた男たちが私を両脇から抱えるようにして立った。パスポートを調べられ、クンドゥズ司令部の許可証がないことが問題になる。私はカンダハルで取ったヴィザを示し、それが国内すべての地域の旅行を許可するものだと言い張った。効き目がない。
「車に乗せろ」
アハマド=ジャンが幹部に食い下がった。何かを訴えている。パシュトゥー語なので私には分からない。さっき私が彼に話した内容らしい。私がイスラムの良い理解者だといっている。私をかばってくれている。メヘマン(客人)という言葉も聞こえる。
幹部の方が折れた。私に一礼して、そのまま車で去っていった。アハマド=ジャンに救われたらしい。私はマスード派側にいたことも、ごまかしのような方法でここまで来たことも、アハマド=ジャンに隠していた。私は彼の高潔さを利用した詐欺師だった。