詐欺師(その2)

さっき職務質問を受けたときと同じ答えを並べた。
「最前線に一人で来るなんて無茶だな。歩くなんて正気の沙汰じゃない」
若い戦士はにかにか笑いながらいった。
「おれが付き合ってやるよ」
戦士の名はアハマド=ジャンといった。彼は人の良さが滲み出てしまう不良少年といった風体だった。彼はパキスタンで難民として少年時代を過ごし、カラチにあったタリバンのメドレッセ(イスラム神学校)でシャリーアイスラム法)を学んだ。ここでは「神の名を利用してアフガニスタンを戦乱に陥れているムジャヒディンはイスラムの敵であり、イスラムの敵と戦うことはジハードである」と教えられたという。
「これからアフガニスタンは素晴らしい国になるよ。今までは本当にひどいことばかりだった。もうすぐ戦争は終わる。そうしたら再建が始まるんだ」
アハマド=ジャンの陽気な声を聞いているうちに、さっきまで私の全身を支配していた恐怖心が氷のように溶けていった。彼は走ってきたタリバンの連絡要員の四輪駆動車をヒッチハイクして、最前線まで運んでくれた。
わずか一ヶ月前に私がいた塹壕は一変していた。薬莢と羊の骨が転がっていること以外に、戦闘の跡を示すものは残っていなかった。私が戦士たちと寝泊まりしていた民家も、初めから誰もいなかったように静まり返っていた。少し離れた別の丘の上にタリバン塹壕が作られていた。潔白を示すタリバンの白旗が立っている。パッコール(フェルト製の帽子)を被ったマスード派の戦士の代わりに、黒いルンギーを巻いたタリバンが数人ずつ見張りをしていた。
昨日はこの塹壕マスード派からのロケット攻撃があったそうだ。今も数分に1回程度、銃声が響いていた。
「この音はタリバンが撃ってるのか?」
「いや、マスード派だ。敵だよ」
「ここは危険なのか?」
「最前線だから銃声ぐらいは当たり前さ。心配ない。おれがついてるって」
アハマド=ジャンはそういってウインクしてみせた。