命のふち

戦闘が始まった。

戦士たちは初め、笑っていた。最前線に立った戦士たちを撮影しようとしたのに、皆がにやついているから、さっぱり絵にならない。向かいの崖にBM12砲の土煙が上がっても、そう真剣には見えなかった。しかし、急に変わった。

今まで聞いたことのない、鈍い砲声が聞こえた。

「プルート!タンク!タンク!(伏せろ!戦車だ!戦車だ!)」

戦士たちは塹壕の中に身を隠す。しかし、戦車らしい姿は見えない。数キロ向こうの山の死角から撃ってきているらしい。私にはどの音が戦車砲で、どれが迫撃砲だか分からない。

戦闘ヘリコプターも襲ってきた。羽音だけが聞こえる。戦士たちは塹壕の底にへばりつく。音が聞こえなくなるまで3分間ぐらいだったろうか。随分長かったようにも思えて、良く分からない。

「ハーナバードを攻撃する」と、昨日聞いた。しかし、今攻撃を受けているのは私たちだ。敵が準備していた戦力の方が遥かに大きかったのだ。

私の目にはタリバンの姿も、彼らの乗り物の姿も見えない。しかし、戦士たちは塹壕を出るとそれぞれ、ジリノフだの、カラコフだの、RPGロケット砲だので、ハーナバードの方角を狙い撃ちしていた。

一方、敵の砲は谷を挟んだ反対側の崖や、数キロ離れた川向こうの山の斜面に着弾するのだった。

私は砲弾が飛来するときの「ひゅう」という音がする度に、体を強張らせて塹壕や丘の陰に身を隠した。飛来音は耳のすぐ側に聞こえる。実際にはどれくらいの距離を通り過ぎているのだろう。ただ、この時間が早く過ぎ去ることだけを願っていた。砲の着弾は次第に私のいた塹壕に近づいてきていた。

衝撃とともに、目の前が真っ白になった。味方がRPGロケットを発射したのだと思った。そうではなく、数メートルの距離に敵の砲弾が着弾したのだ。煙で何も見えない。体はどこも何ともない。煙の晴れ間から、他の戦士たちが全力疾走しているのが見えた。

退却している。

私は後を追う前にカメラの録画を始動させた。その分、遅れを取った。塹壕のある崖の上から軍用車両の待つ道路へ滑り降りて行く。戦士たちが蟻のように群がって車両に這い上がって行くのが見える。背中で着弾音が聞こえる。

車両のうち自走砲は既に走り出した。残った最後のトラックも荷台に戦士を満載して少しずつ動き出している。