戦闘・死

「タヤラ(敵機だ)!」
誰かが叫ぶと同時に、空が割れたかというような音が覆い被さってきた。岩の上にいた戦士たちは一斉に近くの窪みや塹壕の底にはりついた。私も隠れる場所を探す。上空を見上げる余裕もない。一番近い塹壕は3人の戦士で満員だった。10メートル先の別の塹壕へ飛び込むより早く、そこいら中の銃という銃が空に向かって火を吹き始めていた。機影を捉えようとファインダー越しに空を見上げると、私に背をつけた戦士の発射するカラシニコフの薬莢がカラー液晶の中を舞っているのが見えた。どれが何の音だか分からない。耳はすでにおかしくなっていた。かわりに横隔膜で炸裂音を感じていた。100メートル後方に灰色の巨大な山がゆっくりと立ち上がっていた。

タリバンのジェット戦闘機の落とした爆弾が荒れ地に直径15メートルのクレーターを作ったところだった。

私は内戦の続くアフガニスタン北部、タハール州とクンドゥズ州の境にある村にいた。ここは当時最も戦闘の激しかった最前線で、私は内戦の一方の当事者マスード派の作戦に従軍していた。

最初の戦闘は私が到着してものの1時間で始まった。タリバンのジェット戦闘機の襲来と迎撃だ。ジェット戦闘機は必ず2機以上で作戦をとると聞いていた。しかし、1機しか見えない。爆弾2発または3発を投下しては、Uターンして行く。それがおよそ2時間の間に、3度続いた。私はその度に泥まみれになりながら戦士たちと一緒に畑の畦に飛び込み、着弾地点ができるだけ遠いことだけを祈った。いつのまにか腹に力を入れ、歯を食いしばっていた。

死を恐れるということを初めて知った。今まで死が恐いと思っていたのは思い込みに過ぎなかった。多分この日の恐怖こそが私の人生最初の本当の死の恐怖だったのだ。体の中で突っ張っている梁みたいに思えた。

マスード派は数千メートルの上空から襲ってくるジェット機に向かって、カラシニコフ自動小銃を撃っていた。弾が届くはずもない。アフガニスタンの空は全てタリバンに支配されていた。

畑の畦に転がったまま、ファインダーの中から小さくなる機影を追い続けていると、一緒にいた戦士カセムの声がした。
「シャヒード(殉教者)だ」