衛生問題

以前、ベニンの民家で出されたパパイヤを食べたところ、なにやら化粧品のような異様な味と臭いがして、ほとんど食べきれずに残してしまったことがありました。ベニンといえばニジェールデルタ周辺地域ですし、土壌の汚染で作物にも異常があるのだろうか、などと当時考えました。
今日になって、それがなんだったのか、やっと分かりました。
Jくんがやはり、パパイヤを手に入れて持ってきてくれたのです。
おかしな味と臭いの正体は、体臭でした。
Jが素手で握った部分のパパイヤの味が変わっていたのです。
ベニンでのあの異常な味は、あの家の主婦の手垢や汗と使っていた化粧品の臭いだったのです。
ナイジェリア人の衛生感覚は日本人や他の先進国、途上国の常識とはかけ離れています。私が見ていても、彼らは汚れた手を洗面器の水でちょっと濯いだだけで、素手でゲル状の料理を掴んで、しかも指の上で弄ぶようにして、食事しています。
ぼくらも果物は素手で扱いますが、皮を剥いたあとの新鮮な濡れた果物の表面をべたべた触ったりはしないと思います。しかし、彼らは基本的に食べ物は全て素手で扱う習慣ですから、タブーの感覚がまったく違います。味が変わるほど無遠慮に、不潔な手で握ったり触ったりした結果だったのです。
彼らの味覚と嗅覚はぼくに比べると非常に鈍く、腐っていても分からなかったりします。果物の香りが変わっていても理解できていないのでしょう。
そもそも、民家に水道がないこちらでは、こまめに手を洗う習慣がありません。インド人も手掴みで食事ますが、ナイジェリア人には彼らのような左手を不浄とするタブーもありませんから、清潔に保とうという日常意識もない。
どの民家もゴキブリだらけだったり、食器を翌日まで洗わずに放置しているのに、洗ったあとの食器になにやらこびりついていたり、ナイジェリア人の衛生感覚にはのけぞるような体験を重ねていますが、ますます、彼らの料理に手を出すのを警戒するようになってしまいました。

今、Jが作ったこの世のものとも思えないジョロフライスを、なんとか人間の食べられるものにしようと、自分で料理し直しながら、これを書いています。トウガラシと米とオイルだけのこの「料理」は、鍋にぶち込んでブイヨンとタマゴに絡めておじやにしても救いようがなく、今、上澄みの真っ赤な油を掬っては捨てています。Jは例によって言い訳するだけで、使えない。サンデーが帰省するが早いか、ギャルを連れ込んでしけ込んでいます。