チェチェンのテロリスト(その3)

だからテレビやラジオで、チェチェン戦士を名乗る何者かが
市民を誘拐したり、処刑したりしているという報道を聞くたびに、
大きなショックを隠せずにいた。

しかし、パンキシ渓谷には確かに、ルスキーのような
麻薬中毒者が大勢いたのだ。
誰と誰がそうなのかは、人の噂に流れることもあり、
まったく噂にもならないが、結果的にはそうだということも
あったりだった。
チェチェン独立派の戦士たちは、麻薬とスパイの勧誘の誘惑に、
常に晒されていた。
ロシア当局は誰が中毒者かを調べることで、
リクルートすべき人間の目星をつけていたのだろう。

ベスランの学校占拠事件の実行犯がなにものかは
まだ分からないが、97年から第二次チェチェン戦争勃発後に
大流行した、チェチェンが関与したという誘拐、殺人などの
犯罪に非常に似ていることに気がつく。
今ではチェチェン最強の野戦司令官の一人ドク・ウマロフも
もともとはそういう、犯罪集団の一人だったという。

ロシア秘密警察FSBの元中佐で、ロンドンに亡命した
リトビネンコ氏は、
「この時期の犯罪で、チェチェン人が単独で敢行したものは
一件もない。すべてはFSBが背後で支持していたのだ」
と、語っている。
つまり、「チェチェン人によるテロ」の実態は、そういうものだった。

朝日新聞は、ロシアのメディアの翻訳だろう、今回の事件の背後に
シャミル・バサエフが糸を引いていると書いている。
(参照→ http://www.asahi.com/international/update/0904/004.html
バサエフは今回、何の公式見解も出していない。
彼はこれまで、必ず何らかの声明を出してきた。
自分が関与していれば、犯行声明を出すはずだ。

ザカエフが「別の勢力がいる!プーチンを大統領の座に押し上げた勢力が」
といっているのに、日テレが「絶対に違う」「まったく分からない」という
二言しか使わなかったのは、担当したディレクターが無知なため、
彼が語った意味を理解できなかったからだろう。
ロシアという国に無知だと、ザカエフの言葉は確かに、
「なにを世迷いごとを」とでもいいたくなる内容に聞こえる。
しかし、実際にはロシアという国には、表面に見えているものが
本当の姿だということの方が実際にはまず、ない。
目に見えない巨大で邪悪なものが常に、動いていて、
多くがそれに支配されているのだ。
モスクワの「日本人社交界」を生活の場としているような特派員諸君には
永遠に辿り着けないこの国の真実が。