解放へ

驚いた。

イラク人の知性と理性に驚いた。
戦争中の行動を見て、イラク人が呆れるほど冷静だということは
知っていたが、これほどとは思わなかった。

彼らは、この事件を惨劇に終わらせることをくい止めて見せた。
モスクワ劇場占拠事件でも、ペルー大使公邸人質事件でも、
事件は惨劇で幕を閉じた。
イラク人はこれを繰り返さなかった。
アンマンにできた日本の対策本部は、
アルジャジーラの速報で初めて知ったという。
9日にバグダッドスンニー派宗教指導者アッバーリ師が
侵略に協力していない人質を解放するよう、指導する声明を出していた。
誘拐グループはこれに従ったわけだ。
日本政府の工作ではなく、イラク市民自身の手で、解決に向かっている。

日本とイスラム世界は、長い歴史の中でこれまで一度として
衝突したことがなかった。
私たちはずっと、友人だった。
その実績が、今回の自衛隊イラク派兵で、
すべて台無しになろうとしていた。
今回の事件は、日本とイスラム世界の歴史の中で、
最初にして最大の悲劇的な衝突になろうとしていた。
その責任は全面的に、日本側にあった。
イスラム世界は日本に親愛の情を抱き続けてきたが、
私たちは応えなかった。
まさに、誘拐グループがいった通りだったのだ。
そして、私たちは欧米にもまして、イスラムについて無知だった。
しかし、無知で愚かでヒステリックな私たちのマイナス点を補って、
イラク人は聡明だったわけだ。
私たちは日本の外交史上最大の危機をイラク人に救われた。