哲学者やっち

朝食のオムレツを食べながら、やっちと話をする。
彼はヘッセなどドイツ文学に傾倒し、カントやキェルケゴル、フロム、
ユングなど、ドイツ哲学・心理学に通じた正統派インテリゲンツィヤだ。
ヘーゲルのドイツ弁証法を学んだ哲学者聖戦士
ハムザート・ゲラエフを思い出す。
報道関係者の中にはノンフィクションはよく読んでいるが、文学や
思想・哲学といった空想方面の読書はあまりしていないという人が多く、
逆にノンフィクションをほとんど読まない私には
共通の話題が少なかったりする。

チェチェン独立派の国防大ムハンマド・ハンビエフが投降した、と
時事通信などが伝えている。
ムハンマド・ハンビエフは国防大臣といいながら、
チェチェンではそれほど有名ではない。
市民の伝説とすらなっているのは、その兄の保健大臣
オマル・ハンビエフの方だ。
時事通信はロシア側の発表がそうなのか、大統領マスハドフ
現在投降交渉中だと書いている。
おかしい。
ハンビエフ投降の直前、私のところに、チェチェン外務大臣
イリヤス・アフマドフマスハドフを代理して、
ロシア秘密警察に誘拐されたハンビエフ兄弟の家族・親類16人の
解放を求める声明を送ってきた。
ハンビエフは家族を人質に取られ、殺すと脅迫を受けた挙句、
仕方なく投降したのだった。
ロシアから国際刑事警察機構に手配され、デンマークで拘束されたあと
ロンドンで無罪判決を受けて釈放された大統領特別代表
アフメド・ザカエフ同様またはそれ以上に、
オマル・ハンビエフはただ、市民と共にあって平和に身を捧げた人だ。
99年の11月、ロシアの無差別空爆で、
グロズヌィの病院はことごとく廃墟となった。
医師も看護婦もその多くが脱出した中で、
オマル・ハンビエフは一度も逃げなかった。
激戦下に留まって傷ついた市民や戦士を癒し続けた。
この4年間、チェチェン市民の口から、ハンビエフを敬愛し、
讃える声を何度も聞いた。
寧ろ、それだからこそ謀略と暴力の帝王プーチンが恐れているのだろう。
いつものことだが、時事通信はそうした事情には一切触れず、
ロシアの発表を垂れ流しにしている。
たぶん、初めっから知らないのだろう。

インターネットの接続環境が絶望的だ。
メールの送受信だけで、エラーを繰り返した挙句、3時間掛かった。