タンパク補給

なぜ自分はバイオリンとかモリンホール(蒙古の民族楽器)とか、
弦楽器の音色が好きなんだろうと考えた。
ギターやウクレレではダメで、ビオラやチェロならいい。
これは、引っ掻いて音を出すからだという結論に辿り着いた。

なぜ原稿が進まないのかを考えて、
ひょっとすると脳に栄養が行き渡っていないのかも知れないと思いつく。
雨が降っていないのを確認して、バイクで走り出した。
どんな栄養が必要なのか考えて、まずは早稲田二丁目・明治通り
ビッグボーイの前を通るが、ここのサラダバーを
食べたいという気がしない。
どうやら足りないのはビタミン類ではないらしい。

そのまま走り続けて、明治通りから新宿職安通りに入る。
ハナマサのしゃぶしゃぶ店の前に来たところ、
自分には動物性タンパク質が足りないらしいと思いついた。
ハナマサしゃぶしゃぶ館では、夜10時以降950円で食べ放題をやっている。
このあと原稿なので、控えめに食べる。
ここのコーヒーにジェラートを落としてフロートにすると美味しいと、
前回来たときに隣のおねいさんから学んだ。

動けないほど食べると原稿を落とすので、まだ動けることを確認しながら、
店を出て、バイクで明治通りを北上する。
池袋経由で要町のサンデーズサンへ。
ドリンクバーを注文してノートパソコンに向かったところ、
少しずつだが原稿が埋まっていった。

原稿のテーマ、映画「In This World」はアフガン難民の少年が
陸路シルクロードを横断してロンドンに辿り着くまでの、
苦痛に満ちた旅を追った実話を基にした劇映画だ。
私は10年前の秋に、作品の主人公とほぼ同じルートを取って
中央アジアを横断したことがある。
書いているうちに、当時アフガニスタンの難民たちや
イランのクルド人に受けた親切を次々に思い出して涙がこぼれた。
難民キャンプで育ったパシュトゥン人の少年イスラム聖戦士アジマールの
真面目でまっすぐな目を思い出すと、
今でも私は当時にフラッシュバックする。

真夜中のファミレスでパソコンを叩きながら泣いている三十男の図は
かなり不気味だと思うので、風邪を引いている振りをした。

向かいのテーブルの二十歳ぐらいの男女が、「今週三人とやっちゃった」
「その一人がおれかよ」「名誉と思ってくれなきゃ」
といった会話をしている。
なんだかアタマが混乱する。