傷(その1)

明日がアミューズの原稿の締め切りだ。
ずっと以前にこの原稿は書き上げるはずだった。
が、この数日間、床爪荘に引き篭もって原稿と向かい合っていながら、
一行も進まない。
頭の中で関係のない想念が去来し続けている。

前川氏との破局に傷ついたのかというと、そうではない気がする。
私の中では24日に終わっていた。
24日も、破局が辛いというよりも、
それまで感じていた辛さから解放されたことで、
私はむしろ非常に楽な気持ちになった。
逆に、彼女が24日以降も自分の中に愛が生まれるのではないかという、
私の考えではありそうもない可能性に懸け続けてくれたことが、
申し訳なく、ありがたいと思う。

今の私の頭の中で、無意味に行ったり来たりしているのは後悔の念だ。
私は彼女が障害者だということに気づいていなかった。
誰よりも近く、障害のある人たちと接してきたはずなのに。

以前、まだ関係を持つ前に、彼女自身が私にメールで
説明してくれたことがある。

『例えばね、事故で顔中をつぎはぎの傷だらけにしてしまった女の子のところに、
一人の青年が現れて、「その傷は素敵だよ。僕は君が好きだよ」と言ったら
その女の子はどんなに救われるでしょう。どんなにその言葉に縋るでしょう。
それだけが救いで生きるようになるのです。
ところが、青年はある日突然に心変わりして「君の傷が嫌いだ」と言って
女の子の元を去ってしまう。いつかそうなるとわかっていたけど、
これまでそれを試そうとするたびに大事なものを失くしてきた女の子は
今度こそはそれをすまいと、不安を押さえつけ、信じる努力をし、
ひたすらに青年と青年の愛を信じていたのに。』(6月10日のメールより)
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