ハラブジャ(その1)

 クルディスタンバグダッドとは異なった紙幣を使用している。バグダッドではサダムの顔が印刷された新しい250ディナールや100ディナール紙幣を使っているが、クルディスタンではバグダッドでもう使われなくなった古い10ディナール紙幣や5ディナール紙幣を復刻印刷して使っている。これは10年前、クルディスタンを訪れたときと同じ紙幣だ。当時、両替の度に分厚い札束を持ち歩く羽目になったが、今では貨幣価値が上がったので、そんなにたくさん受け取れない。バグダッドではその後、ディナールの価値が暴落して額面の大きな紙幣しか使われなくなったが、クルディスタンでは経済成長とともに貨幣価値が上がって、古い札を復刻するようになった。復刻印刷がスイスで行われていることから、「スイスィディナール」と呼ばれている。これに対してサダム政府が大量に刷った粗悪なサダム札は「コピー」の意味の「ベネーディナール」と呼ばれている。クルディスタンの方が経済的に強く、3スイスィディナール=1000ベネーディナールのレートで取引されている。今日現在、1USD=6.25スイスィディナールだ。クルディスタンバグダッドを比べると、クルディスタンの方が物価が高い代わりに、品物の質もいい。
 スレイマニヤは実に大きな町だ。新市街と旧市街は車がなければ移動できない。新市街にも旧市街にも市場があり、特に旧市街の内務省前に広がる市場は広大で、一日で歩き尽くすのは難しいほどだ。
 昨日、PUKメディアセンターで、ムッラ・マハムード司令官の消息を尋ねたが、分からなかった。10年前、このスレイマニヤで私を家に泊めてくれた人だ。あのあと、もう一つのクルド独立派ゲリラ組織KDPがサダムと組んでスレイマニヤに侵攻し、PUKの幹部の多くは地下に潜ったといわれた。ムッラの一家はどうしたことだろうと、ずっと気に掛かっていた。一人娘のティアナは美人だった。
 他にメディアセンターでは、「ハラブジャにいるというアンサール・イスラムはどうなったのか?」と尋ねた。アンサール・イスラムクルドタリバンともいわれ、イスラム革命を目指す団体だそうだ。クルド人のほかアフガニスタン帰還兵のアラブ人、パレスチナ人などがいるとされ、報道によるとアル・カイダと関係があるとか。
 メディアセンターの回答は、「多くを逮捕し、残りは逃亡した。すでに組織的な活動はない」というものだった。(その2へ続く)