バラエフ

悲劇が始まろうとしている。
モスクワの劇場で、チェチェン戦士たちが観客700人を人質に立て籠もっている。
チェチェン戦争の終結」を要求しているという。
無茶だと思う。
シャミル・バサエフがブジョンノフスクの病院を占拠して、
戦争終結を要求したときは、ロシアは飲んだ。
今は情況が違う。
世界中で「テロとの戦い」の名の元に、
被迫害者の訴えを力で押し潰すことが正当と見なされる時代だ。
チェチェン政府公式サイト「チェチェンプレス」によると、
事件を指揮しているのは「バラエフ司令官」だそうだ。
その名に心当たりがある。
去年いたグルジアのパンキシ渓谷の、私が住んでいた家の隣に、
若者たちのグループが住んでいた。
彼らは「アルビー・バラエフ」司令官の部隊だった。
アルビー・バラエフ自身は、2001年の初めに山岳地帯の戦闘で殉教していて、
若者たちはその残党だった。
バラエフ司令官は、バサエフ、ゲラエフ、ザカエフとともに、
チェチェン4大司令官に数えられていた。
彼には若い妹ハワ・バラエワがいたが、
烈女として早くもチェチェン人の間で伝説となっていた。
彼女は兄の死よりも早く、2000年の夏に、軍用トラックに爆薬を満載して、
チェチェンのロシア軍の兵舎にカミカゼ突撃を決行し、
大勢のロシア兵を道連れに自爆死した。
バラエフ兄妹には、他にも兄弟が入ると聞いたことがあった。
今回、劇場に立て籠もっているのは、あの兄妹の血筋のものではないのか?
だとすると、一緒にいるのは、パンキシで私の隣人だった、
あの若者たちということはありえないだろうか?
彼らのところに遊びに行って、一緒に礼拝したことがある。
この夏のロシアとグルジアの対立問題に伴って、
彼らは全て、パンキシを出ていったはずだった。