平和の日

終戦の日なので、平和についての話をしよう。
夕方、床爪荘で日中かいた汗を流そうと、コインシャワーへ行った。
いつも通り、鏡に映った自分のプリティなおしりに見とれてのんびりしていると、
ドアが破れんばかりに外から蹴りつけられた。
「早くしやがれ!待ってんだ!」と怒鳴っている。
私は平和主義者なので、のんびりと応えた。
「そこでおとなしく待ってろ」
外の待ち人はもう一度、ドアを蹴りつけた。
「なんだとお、このお!」
私は極めて穏やかな声で、おごそかに告げた。
「待ってろよ。逃げるんじゃないぞ」
外の声は沈黙した。
怒りのエネルギーがドアを突き抜けて伝わってくる気がした。
私は、シャワー室を出たあとのことを空想した。
男を挑発して、逆上させて殴りかかってくるようにし向けよう。
最初に手を出してくるまでに、人通りの多いところまで誘導しよう。
駅の裏に交番がある、そこのお巡りさんが現行犯逮捕できるよう
シチュエーションをつくろう。
それから、告訴して慰謝料を取ろう。
でも、コインシャワーの順番を待ってるぐらいの男だから、
あんまりカネ持っていないだろうなあ。
ぼんやり考えながら、冷水のシャワーで身体を流していたら、
もう一発キックが飛んできた。
水気をふき取って、さて不倶戴天と対面しようとドアを開けると、
誰もいなかった。
向こうは向こうで、シャワー室の中で水を浴びているまだ見ぬ私のことを、
雲を突く大男かも知れぬと想像したのだろう。
水浴びを終えて出てくる前に、逃げ去っていたのだった。
ああ、平和的に紛争を解決してしまった。