怪書(その1)

問題作とか、トンデモ本という言葉がありますけど、
我らが「知られざる戦争報道の舞台裏」(三修社アリアドネ企画)は
自分でいうのもなんですが、怪書―あやしい本―とでも呼ぶべき本だと思います。
編集サイドの編集方針が意図不明で、さらに出版社の販売方針が支離滅裂だ。
これはジャーナリズムに関する本なのか、それとも軍事・国防に関する本なのか?
ジャーナリズムに関する本だとすると、世間ですでに出ている幾多の報道を
後追いする本なのか?
それとも、既成報道を否定し、別のアプローチを提示する本なのか?
軍事・国防に関する本だとすると、専門的・実際的に情報を提供する本なのか?
それとも、ミリタリーマニア向けの趣味情報の本なのか?
私は執筆者の一人ですから、主張の客観性に限界があるかも知れませんが、
私の担当章のすぐあとに、ミリタリーマニアが戦争報道について語る
ゴミのような記事が平然と掲載されていたりします。
たぶん、マニア的な記事に親しんでいるミリタリーマニアの読者は、
私のえっらそうな記事のもの言いが大嫌いになるでしょう。

今回の書籍の執筆者は、結果的には現場取材派と周辺情報収集派に
分かれたような感じに見えます。
戦争報道では、現場取材が肝心だという意見を耳にしたことがありますが、
私は現場が絶対で、現場を見ずにものをいうのはおかしい、とは思っていません。
私自身は自分を現場取材者だと位置づけていますけど、
報告された情報を分析する人や再構成する人は重要だと思っていますし、
そういう仕事で優れた業績を残した人たちを尊敬しています。
ただし、私に対して分析記事や解説記事を書けというのは、
文字通りお門違いですので、よそを当たってください。
(以前実際、そういうことをおっしゃった大手新聞記者がいたので、念のため)
さて、現場取材が何より重要なのかという問題ですが、
必要にして十分でないというのが正しいところだと思います。
いくら迫真の現場に行ったって、事実を掴み損ねていたら無意味なのです。
そういう意味で、今回の私たちの本には、現場リポートでありながら、
基本的な事実や常識的な用語に間違いがあったりして、
読むに耐えない作品も入っています。
一方、特に重要な現場を押さえていないにも拘わらず、
知識と情報分析の確かさで素人を唸らせる軍事専門家大久保氏の記事も
今回は読むことができました。
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