連なりの本性(その1)

引き籠もりの私を、学生時代からの古い友人で天才コピーライターの人妻OSが
焼き肉に誘ってくれた。
アルハムドリッラー!
アルハムドリッラー!
OSは妊婦で、秋に出産予定だ。
彼女は去年、大病を患い、闘病の末全治して生還した。
病気になって、自分の死を想ったとき、
「子どもが欲しい」と、強く思ったそうだ。

以前の私なら、そんな気持ちは分からなかった。
もしも、自分が死ぬのなら、子どもだけをこの世に残してゆくなんて、無責任だ、
などと思っただろう。

別の考え方を知ったのは、やはりチェチェン戦士たちからだった。
彼らは金も財産も定職もないのに、次々と結婚し、子供を作っていた。
そして私にもいうのだ。

「おまえはムジャヘッドなのだから、結婚して、子供を持たねばならない。
 おまえはアッラーの思し召しで、今に死ぬだろう。
 そのとき、おまえの意思を継ぐ人間が必要だ」

そういうことを述べるチェチェン戦士たちを、
私はあんまり誉める気にはなれない。
だって、彼らは生きていようと死んでいようと、
森で戦っていようと村で暇を持て余していようと、
子どもを育てるために真面目に働いたりするわけじゃないのだから。

それでも、彼らがいつも自分たちの死を見つめていることだけは
私はよく分かっているつもりだ。

アブハジアの森の中で、アスランベックという馴染みの戦士がいった。

「シャミル、おれが殉教したら、おれの写真を撮れよ。
 世界中にまことのジハードを見せてやれ」

私が頷くと、5秒も経たないうちにアスランベックは言い直した。

「いや。やっぱりやめた。おれは地上には何も残さない。
 全ては楽園にすでにおかれている」

2週間後、アスランベックはロシア軍ヘリコプターのロケット攻撃で、
顔の見分けもつかぬ姿になって息絶えた。