眠るようには死ねない

テレビをつけるのは、すごく久し振りだ。
いつから、テレビを見なくなっただろう?
見るとはなしに、NHKをつけると、
利家とまつ」という時代劇ドラマをやっていた。
合戦で、竹野内豊演じる武将が息絶える場面を見ていて、
また違和感に襲われた。
竹野内は壮絶な血戦の末、くさむらに倒れ伏し、
野菊のたなびくさまを見つめながら、眠るように息を引き取ってゆく。
でも実際の人間は、こんなふうに安らかには死ねない。
負傷の苦しみで意識は混濁してゆき、
まず表情から人間らしさが失われ、
本人の意思を離れた肉体だけが猛獣のような吠え声をあげ、
やがて哺乳類から、より下等な生き物に変わり果ててゆき、
刺激に対して筋肉が反応するだけのタンパク質と神経のかたまりとなり、
最後に無生物になる。
キリスト教ユダヤ教イスラムは進化論を認めないというが、
(私はイスラムは進化論に限らず全ての科学を肯定すると信じている)
人間が死に際して、進化の道筋を逆に辿るように無に還ってゆくことは、
死がより身近であった社会の方が理解しやすかったように思える。
ドラマの中の死は、私には人の死に見えなかった。