フラッシュバック

森の中の記憶は、突然、何の前触れもなく甦る。
背中に冷たい風が入ってくるような感覚。

闇の中にマグライトを翳して、
ミリタリーナイフで具合のいい木を伐って支柱を作り、
床には乾いた草を敷き詰めて、ブルーシートのテントに横たわると、
冷たい空気の中に聞こえるのは狼の悲しげな遠吠えだけとなる。
両側のアダムとアスランの体温が伝わってきて、
自分の足がどこにあるのかよく分からないものの、
ようやく身体の中心部にあったこわばりから解き放たれる。
これが他のシチュエーションなら最高に楽しいキャンプだろうが、
私たちは誰も喋らない。
考えていることは分かっている。
「おれは死ぬのだろうか?」
私はすぐ近くにある自分たちの死の正体を
空腹の胃と全身の痛みに感じずにいられない。
陽が出ていて、まだ身体が疲れ切っていない朝の時間には、
「次の村で食料がもらえるらしい」とか、
「一ヶ月以内に作戦は終わるらしい」とか、
希望的観測に満ちた噂話で私たちは湧いた。
夜、全身疲れ切って、空腹感が絶頂に達して、
それでも眠るしか他にないとき、もはや私たちは夢を見ない。
死んだ仲間の話は誰もしない。
独り言のように、ときどき誰かの祈りの声だけがテントの中に聞こえる。