単一ベクトル

金曜日のラマッラのデモは膨れ上がって、そのままバリケードに突き進んだ。
元日のものと違って、ハマスなどイスラム組織が参加している。
イスラエル治安部隊は、これに雨のような催涙ガス弾を見舞った。

一面白い煙。恐ろしい臭い。胸の中が焼けるように痛み、
私は涙を流しながら咳き込んだ。
イスラエル軍が使用する催涙ガスは非常に強力なもので、
吸い込むと息を吸っても酸素が取り入れられないような症状に陥り、
重い場合は死亡する。
これまでに大勢が催涙ガスによる酸欠で死んだ。
次々と倒れる若者たちを、救急隊員が黙々と運び出す。
倒れた仲間の脇を、別の若者たちが次々にガスの白い煙の中を突き進んで行く。
一旦ガスにまかれて、群集から飛び出した私は、
信じられない光景を目にした。
撃ち込まれ、白い煙を噴き続けているガス弾を、少年が拾って、
イスラエル軍ジープめがけて投げ返したのだ。
ガス弾はジープの風上に落ち、イスラエル兵は慌てて後退した。

空の高いところまで煙は立ち昇り、その中を石が飛ぶ。
石はしかし、何ものをも傷つけることができない。
イスラエル兵は鋼鉄の車両の中に匿われているのだ。
倒れてゆくのは、パレスチナの若者たちだけだ。
彼らは、イスラエル兵を倒すために石を投げるのではなく、
自らが倒れるために、ガスの中を進んでいる。
「ああ、もうやめろ」と、嘆願したい衝動に駆られた。
若者たちは、非暴力主義とは口にしない。
しかし、インドの独立運動はおそらく、
これとほとんど同じ光景だったのではないか、と思った。