再上京

午前5時、MSに手伝ってもらい、彼女のSUZUKIジェベル250を押しがけする。
何度も失敗したあと、スタート時にアクセルに手を振れないことで
うまく行くことが分かった。
アクセルを少しでも回すと、たちまちカブってしまうのだ。
MSは7年前にジェベルを買ったが、初めに3000キロほど乗った後は
全く乗らなくなってしまい、ここ何年もジェベルを駐輪場の飾りにしていた。
売り払おうとバイク店へ持って行ったところ、
値がつかないどころか、逆に引き取るのに金がかかることが分かり、
私に貸してくれたのだ。
私の方は、去年の9月に愛機HONDAトランザルプ400Vを盗まれて以来、
足がない状態だったから、全くありがたかった。
スタートして初めに気になったのは、あまりの非力さだった。
それまで400CCマシンにばかり乗っていたから仕方がない。
淡路島に向かう高速道路でスピードが出ないため、
他の車に抜かれる時の速度差が大きくて身の危険を感じる。
明石大橋の上ではいつもにも増して強い横風が吹いており、
軽いジェベルはたやすく流され、ふらつく。
加えてカウルを全く持たないジェベルでは
時速わずか80キロでも、向かい風になるタイミングで、
ハンドルから腕をもぎ放されそうな風圧を感じる。
最も辛いのは寒さだ。
MS宅から徳島市の津田港まで、わずか135キロが非常に長く感じられた。
午前9時過ぎに着き、東京行きフェリーの出港まで2時間以上あったので、
徳島の街に戻って本屋を探し、三島由紀夫の文庫を買った。
船の中で退屈しないで済むように。
しかし、そんな心配は要らなかった。
船が出ると、私はまもなくぐっすり寝入ってしまった。
前夜一睡もしていなかったので。
太平洋は波が高く、大型フェリーは激しく揺れた。
気分が悪くなった客が多かったそうだ。
私にはディーゼルエンジンの低い轟きと規則的な揺れが
眠りを誘う心地よいリズムに感じられた。