お金がない

もはや金もカメラもない。
家に戻って、座り込んでいたら、
ムハンマドに声を掛けられた。
「日本の友達が来ないなら、放っておいて一緒に行こうじゃないか」
「もう、お金が全然ないんだよ」
「金なんて、どこからか湧いてくるもんだ」

午後の礼拝の後、ムハンマドはハサミと糸で
自分のトランクスを改造していた。
サポーターとポケットを切り取って、水着にするつもりのようだ。
おもむろにいった。
「金ならおれが出してやる。
おれの叔父はモスクワのロト(籤)を経営してるんだ。
スイスの銀行に口座を持ってる」

それから彼は、私がこの1ヶ月半でムサにいくら払ったのか、
詳しく尋ねた。
そして、「もう誰にも金を渡すな」といった。
私はどう答えていいか分からなかった。
この男、本気だろうか?