拘束初日(その2)

 鉄道警察でも内務省オヴィルでも、ワシーリーのクワルチーラに泊まっていたことは話さなかった。イズマイロヴォ・ホテルにいたことにした。失敗したと思ったのは、ナズラニに入って最初の一晩をアフトセルヴィス二階のモテルで過ごしたのに、面倒になってホテル・ウユトの名だけを挙げたことだ。ウユトの酔っ払った主人ルスランは、警察からの電話問い合わせに対して、「日本人は二晩泊まってる」と答えた。私はもう四晩泊まったというのに。
 昨日、国境管理の緩さを見たばかりだが、今日学んだことは、国境を楽にパスしても、そのあとに拘束やら尋問やら、ろくでもない連中との付き合いが待っているということだ。ロシアでは共和国ごとに、3日以内の滞在登録が義務付けられている。もっとも多分、そういう決まりはあるが、誰も実行していなかったとか、そういうことだ。あるいは、以前はホテルがそういう雑務は代行していたのだろう。なにしろ以前は、一年ビザの外国人登録が最初の入国のとき一回きりでよかった。今は入国する度に登録し直さねばならない。
 そういえば、岡田一男さんが何十年もロシア・旧ソ連と関わってきて、初めて自分でオヴィルへいったと、カザフスタンの取材から帰ったときに話していたっけ。やはり滞在登録の問題でだ。つまり、同じようなパターンだったのかな。
 問題がある。明日が土曜日だということだ。おそらくズベルバンクは休みだろう。罰金の500ルーブリとやらを私は納められないかもしれない。そうすると、私はイングーシェチアを出てゆけなくなり、明日のモスクワ行きの列車には乗れない。次に銀行が開くのは22日の月曜日で、それから週二便しかない列車の次の便を待っていたら、私のモスクワの滞在登録期限が切れてしまう。とりあえず、明朝10時に内務省へ行って、銀行へ行ってみるが、働くことが大嫌いなこの国の、トノサマ商売の銀行が、顧客窓口を開けているとはとても思えない。
 月曜に空路でモスクワに戻ってもどうということはないが、時間と金がもったいない。一ヶ月もあれば取材時間としては十分だろうと、登録期間を一ヵ月後の24日までにしたが、こう長引くとは思いも寄らなかった。(その3へ)