予測困難

「世論」が実に見えにくい国だ。
米国を非難する声なら、簡単に拾える。
サダムを称える声を拾おうと思ったら、ビデオカメラを向ければいい。
もっとも、ビデオを下げると、さっきまで「サダム」「サダム」と叫んでいた声が、途端に小さくなる。

私たちが招かれたサダム主催の平和集会の、
1000人は入ろうかという会場がガラガラだったのには驚いた。
プログラムの催しのインターミッションに、客席から誰かが突然立ち上がって、
会場中に響く大声で、米国を非難し、サダムを称える。
それに呼応して、その周辺に座っていた約達が、サダムを称えるスローガンを叫び始める。
そんな光景が繰り返された。
しかし、何回目かによく見ていると、立ち上がって観衆をアジっている男の手には台本が握られ、
しかも彼は自分の科白を良く覚えていないらしく、ちらちらと台本を読んでいるのだった。

知り合ったばかりの時、政府支持の発言を繰り返していた友人が、
ある日突然、「おれは革命を望む」と言い出したとき、我が耳を疑った。
「本当は、みんなサダムを憎んでいる。
みんな良く知った間柄でなければ絶対に口にしないが、イラク人は本当に苦しんできた。
米国の最初の一撃と同時に、革命が始まるだろう。
米軍のミサイルで死ぬかもしれないし、革命の動乱で死ぬかもしれない。
それでも、今のように生きながら死んでいるような状態よりはましだ。
米国の侵略が止められないのなら、これを最初で最後のチャンスに変えるつもりだ。
政府はみんなに憎まれていることをよく知っている。
彼らは今、米軍に対抗することよりも、市民と戦う準備をしている。
バグダッド郊外の土嚢を積んだ堡塁を見たか?
銃口は南の米軍ではなく、北のバグダッドを向いていた。
恐ろしい内戦が始まる」